第一章 時間

今日の100円と明日の100円、どちらが価値があるか?
今日の100円の方が価値があります。明日までに、一日分の利息がつくからです。

利息とは、時間の価格です。

金利が1%なら、100円を預けると1円の利息がつき、一年後には合計101円になります。実際の銀行預金では、金利も預金残高も日々変動しますが、これらに応じて利息は毎日計算され、まとめて支払われます。一日でも早くお金を手に入れられるなら、その方が価値があります。お金は利息を生むからです。もちろんお金を借りたときにも、利息はつきます。金利が10%なら、100円を借りると10円の利息がつき、一年後の返済額は合計110円になります。一年後に100円を返す約束なら、現在借りることのできる金額は 100円/(1+10%)≅91円 となります。金利が10%のとき、現在の100円と一年後の110円、現在の91円と一年後の100円は、それぞれ価値が同じである、ということができます。

比較アイテム今日の時点明日の時点
今日の100円100円100円x(1+金利)
明日の100円100円/(1+金利)100円


金利はマイナスにはなりません。もしも金利がマイナスなら、預けることでお金が減ってしまうのなら、誰も預金したいとは思いません。お札や硬貨を金庫へ入れておけば、減らないのですから。誰も預金したいと思わなければ、そんな金利は存在しないのと同じことです。一方で、金利に上限はありません。法律では、金利に上限が定められている場合がありますが、仮に違法な取引であったとしても、借りたいと思うひとがいるのなら、そこで需要と供給が一致するのなら、その金利は実在するものです。金利はマイナスにならないのだとすれば、今日の100円の方が明日の100円よりも、「常に」価値があるということになります。

銀行預金、住宅ローン、定期預金、消費者金融、それぞれに金利の水準は異なります。銀行預金の金利よりも消費者金融の金利の方がずっと高いですが、それは消費者金融では借り手が返済すること不可能になってしまい、貸し手がお金を回収できないケースが多いからです。そのようなケースも含めて、すべての貸し出しから全体として利益を出す必要がありますから、消費者金融では金利を高く設定せざるを得ません。返済されることが確実でない分、金利は高くなるわけです。一般に、つぶれそうな会社ほど、高い金利でしかお金を借りることはできず、つぶれそうな銀行ほど、金利が高くなければ預金を集めることはできません。

ではリスクがなければ、まったくつぶれる心配がなければ、金利はゼロになるでしょうか。世界中のあらゆる金利を観察してみると、およそつぶれそうもない、ほとんどリスクのなさそうな預金でも、実際に金利は存在しています。例えば、大きな国家にお金を預けるような場合です。このような金利こそ、「純粋な」時間の価格に他なりません。つまり先に挙げられたような様々な金利は、「時間の価格」と「リスク割り増し」によって構成されている、と考えることができます。「リスク割り増し」のない最も小さな金利、無リスクの金利が「時間の価格」です。以降ここでは特に注釈がなければ、「金利」とは、割り増しのない無リスクの金利を指すものとします。

金利のない社会を理想とする教えがあります。しかしながら、「貨幣が貨幣を生むことは自然に反している」と考えるなら、おそらく時間についての理解が足りていません。利息は時間の価格なのですから、これを否定しようとする試みは、時間には価値がないと主張しようとする試みです。利息の代わりに、例えば「手数料」と名称を変えたとしても、実質的には同じことです。「同胞からの利息取得禁止」の教えは、仲間への利益供与の強制に過ぎません。無利息でお金を借りたいひとはたくさんいますが、無利息で預金したいひとはいません。「時間がもったいない」感覚は、古今東西を問わないのです。

ならば、時間はいくらなのか。いくらであるべきなのか。

金利が低いことは、時間の価格が安いことを意味します。預金してもあまり利息がつかないかわりに、借金をしてもあまり利息を払いません。こんなときは、お金を借りて商売をするチャンスです。あなたが時間を上手に使って、世の中の「安い」時間よりも価値を生み出したとき、それが「成功」なのです。一方で金利が高いことは、時間の価格が高いことを意味します。預金するとたくさんの利息がつくかわりに、借金をするとたくさんの利息を払う必要があります。こんなときは借金を減らして、悠々自適な預金生活を送りたい。世の中に流れる時間は、「いい値段」です。確信がないときには、様子をみることが肝要です。

時間の価格は、個々の経済活動の総和としての、社会全体によって決まります。皆が成功している社会では、皆が時間を上手に使う社会では、流れる時間の価格は高くなります。つまり、高い金利となるべきです。誰かが実際に値段をつけることになりますが、社会に流れる時間をよく観察して、そのときの金利を実際に決めるのは、中央銀行の仕事です。時間の価格は、なるべく的確に見積ることが肝要ですが、中央銀行は、時にその値段のつけ方で、社会にメッセージを送ることもあります。

例題1-1) 高すぎる金利には、どのような問題点が考えられるか

例題1-2) どのような条件下で、金利はマイナスになり得るか

例題1-3) 通貨によって金利が異なるのは、どのような構造的背景によるか
posted by equilibrium at 2001-01-01 | [草稿]本文
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