第二章 購買力

今日の100円と明日の100円、どちらが価値があるか?
確実とはいえませんが、おそらく今日の100円の方が価値があります。明日になると、いつも食べているパンの価格は、上がっているかもしれないからです。

お金が物を買う力は、時間とともに変化します。

一般に、物の価格は時間とともに変化しますが、それは「物の価値」そのものの変化と、「お金が物を買う力」の変化の、どちらの要素も同時に含んでいます。例えば、小麦粉が不足して価格が上昇すれば、パンの価格も上昇します。パンの原料の大部分は小麦粉だからです。しかしながら、小麦粉の価格が上昇しても、米の価格に直接の影響はありません。小麦粉は米の原料ではないからです。一方で、人件費や地代が上昇した場合にも、パンの価格は上昇します。パンをつくったり、売ったりするのには、人手も場所も必要だからです。このときには、米の価格もパンと同様に上昇するでしょう。米をつくったり、売ったりするのには、パンと同様に、人手も場所も必要だからです。パンの価格は常に変化していますが、同じように変化するにしても、どちらかといえば固有の要因、つまり「パンの(相対的な)価値」そのものが変化する場合と、どちらかといえば共通の要因、つまり「お金が物を買う力」が変化する場合とがあるのです。

あらゆるものの価格が一様に上昇していくとき、「お金が物を買う力」は小さくなっています。極端な例を考えてみましょう。パンの価格も貰っている給料もどちらも倍になれば、収入と支出のバランスはとれていますから、日常的な生活には困りません。しかし一方で貯金の額がそのままなら、貯金で買うことのできるパンの量は半分になってしまいます。もちろん同時に、返済の金額が事前に決まっている住宅ローンの負担感も、半分になります。あらゆるもの全体の価格の変化を、「インフレーション」と呼びます。「全体」を具体的に定義することは困難ですが、しかし、この概念を理解することは大切です。価格の変化を使途で平均し、「インフレーション」と一括りに整理してしまうことで、形式的であるにせよ「お金が物を買う力」を定義し、物の価格の変化から(相対的な)価値の変化を分離できるようになるのです。

パンの価格に戻りましょう。その変化率を、ここでは便宜的に「インフレ率」と呼ぶことにします。100円のパンは、今日の100円で1個買えます。明日になるとパンの価格は、100円x(1+インフレ率)になるので、明日の100円で、パンは1/(1+インフレ率)個しか買えません。もしもインフレ率がマイナスなら(デフレといいます)、つまり明日になってパンの価格が下がれば、明日の100円の方がたくさんのパンを買うことができます。今日の100円を明日まで、銀行に預けておくこともできます。そうすると一日分の利息がついて、明日には100円x(1+金利)になります。今日の100円で明日買えるパンの個数は、(1+金利)/(1+インフレ率)個です。パンだけでなく、あらゆるものに関して、同様に考えることができます。

比較アイテム今日の時点明日の時点
今日の100円100円100円x(1+金利)
明日の100円100円/(1+金利)100円
100円のパン100円100円x(1+インフレ率)
今日の100円で買えるパンの個数1個(1+金利)/(1+インフレ率)個
明日の100円で買えるパンの個数1/(1+金利)個1/(1+インフレ率)個


お金が増えると嬉しい?お金が減ると悲しい?
このことは、実はすぐにはわからないはずです。

「お金が増える」「お金が減る」という言い方は、時間が経過する概念を含んでいますが、当然のことながら、その間に物の価格は変化します。お金が増えても、その間に買いたいものの価格がそれよりも上がってしまえば、嬉しくないはずです。一方で、お金が減っても、その間に買いたいものの価格がそれよりも下がれば、嬉しいはずです。お金は、ほとんどあらゆるものに交換可能ですが、しかし、「お金が物を買う力」は常に変化しています。時間はいつでも流れていますから、このことには常に注意を払っていたいものです。大きな銀行に預金したお金は、「時間の価格」である利息を、「インフレーション」で割り引くことで、それが物を買う力の変化を認識することができます。先の表の中では、これは「今日の100円で買えるパンの個数」として表現されています。

投資を考える際には、人生の計画と照らし合わせて、家であるとか老後の生活であるとか、将来に価格が変化しそうな自分自身の「お金の使い道」を特定することは、大切なことです。これらを考慮しつつ、投資する対象やリスクの配分を決めることで、より望ましい投資成果へと近づけることが可能だからです。必ずしも将来の計画が明瞭でない場合でも、一般的な「今日の100円と明日の100円」の関係については、よく理解しておく必要があります。お金が倍になったとしても、物の値段がそれよりも上がってしまえば悲しいはずです。あなたがお金マニアでないのなら、欲しいのはお金そのものでなく「お金が物を買う力」なのですから。このことを自覚することは、人生に流れる長い時間の中では、特に大切です。

例題2-1) 一般に、金利はインフレ率よりも大きいといえるか

例題2-2) デフレーションは、どのような点で問題か

例題2-3) 将来の「お金の使い道」を割り引いた総合計は、何を意味するか
posted by equilibrium at 2001-02-01 | [草稿]本文
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