第三章 貸借対照表

投資であれ、商売であれ、人生であれ、現時点での状況について把握し、将来へ向けての計画を立てることは大切です。所有している資産や、将来に支払うお金など、現時点で認識されている経済活動について、まとめて表現しようとする道具が「貸借対照表」です。ここでは自身の貸借対照表を大まかに描いてみることによって、投資を含むすべての経済活動を鳥瞰することを試みます。

貸借対照表は、資産、負債、純資産の三つの部から構成され、以下のように書きます。資産の部には、お金に替えられるもの、お金を生み出すものを列挙します。負債の部には、将来に支払うお金を列挙します。純資産は、両者の差額と考えます。以下では、最も原始的な例から始めて、徐々に複雑な貸借対照表を描いてみます。自身の例を頭の中に思い描きつつ、照らし合わせてみて下さい。

資産負債
純資産


およそ資産と呼べそうなものが現金のみの、負債のない、例えば子供の場合には、貸借対照表は以下のようになります。現金のみで構成される資産は、負債がないためすべて純資産となり、ここでは両者を区別する意義はありません。一般に貸借対照表は、時間の経過とともに刻一刻と変化します。例えば、収入があれば、ここでは現金と純資産は同時に増え、支出があれば、現金と純資産は同時に減ることになります。

現金のみ
現金純資産


彼が大人になって、住宅ローンを組んで投資用にマンションを買うと、貸借対照表は以下のように変化します。マンションを資産の部、ローンを負債の部に書き加えます。購入の全額をローンで賄った場合は、現金の大きさはそのままで、マンションの価格分、つまりローンの価格分だけ、資産と負債が同時に大きくなります。このとき明らかに、純資産の大きさは変化しません。一方で、家賃分の収入とローン支払い分の支出が同時に増えることになりますから、今後の純資産の大きさを変化させる新たな要因が増えます。もちろんまた、マンションは次第に老朽化し資産としての価値は徐々に減少し、同時にローンの残高も返済とともに減ってゆきます。これらも、今後の純資産の大きさを変化させる要因になります。マンションを自宅として購入した場合でも、ローンの金利こそ違えど、構造は変わりません。

マンション購入
マンション
現金
ローン
純資産


さらに、現金の一部を株式投資へ回したとすると、貸借対照表は以下のように変化します。現金の一部が株式へと置き換わっただけなので、その瞬間には資産の部の大きさは変化しません。しかしながら、株式の価格は時間の経過とともに刻一刻と変化します。ですから、今後の純資産の大きさを変化させる要因が、さらに増えることになります。

株式投資
マンション
現金
株式
ローン
純資産


自身の貸借対照表の姿に、次第に近づいてきたでしょうか。企業には一般に、詳細な貸借対照表の作成と報告が義務づけられていますが、個人の場合には、実際にこれを作成しているケースは、多くありません。しかしながら貸借対照表を描くことは、自分自身の経済活動を記述しようとすることそのものです。自分自身にこれから発生する、お金を生み出す要因とお金を使う要因を、思いつく限り並べてみることによって、様々な発見があるはずです。例えば、株式投資の「部分のみ」に着目することには、あまり意味がないことに気づかれるかもしれません。投資の成果を評価するためには、貸借対照表中のどこまでを範囲として考えればよいのでしょうか。「借金も財産のうち」などと言われることがありますが、大きな負債の反対側には大きな資産があります。借金をして増やした資産は、今後の収入を生み出す源になるはずですが、それが負債の返済と利息を上回ったとき、純資産を大きくさせることができるのです。貸借対照表の純資産を増やすこと、これこそが「投資」の大きな目的に他なりません。

ところで、企業でも個人でも貸借対照表の基本的な構造は同じですが、企業の場合には一般に、「純資産に複数の所有者(株主)がいる」という特徴があります。企業の資金調達について、次章で見ていくことにします。

例題3-1) 個人の貸借対照表の純資産の大きさを変化させる最大の要因は何か

例題3-2) リスクの所在は、貸借対照表中のどこに確認できるか

例題3-3) 資産と負債について、将来のすべてのキャッシュフローを現在価値に割り引くことで評価する、「理想的な」貸借対照表を想起してみよ
posted by equilibrium at 2001-03-01 | [草稿]本文
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