第六章 個々と全体

投資先を複数に分散することで、より効率的な「ポートフォリオ」をつくることができます。

ひとつの投資先が何らかの失敗をしたり、スキャンダルに巻き込まれたとしても、別の投資先は大丈夫かもしれない。輸出する企業と輸入する企業を組み合わせることで、予期しない為替の影響を弱めることができるかもしれない。「種類の異なる」投資対象を組み合わせることで、多くのリスクは、分散し和らげることが可能です。組み合わせた投資のリスクは三角形の辺のように、単なるリスクの足し算よりも小さくなり(挟まれる角の大きさは両者の関係に依ります)、すべてをどちらかに投資するよりも効率を高めます。組み合わせたポートフォリオに効率を求めるほど、さらに投資対象の数を増やすことになります。

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| \ A+Bのリスク
Aのリスク | \
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 ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄ ̄
Bのリスク

もちろん、何らかの制約がある場合には、話は異なってきます。例えば、限られた予算の中で最大限に収益を獲得することを目指すのなら、投資対象の数を増やして種類の異なるリスクを組み合わせることの優先順位は、必ずしも高くない場合もあります。100円しか持っていないのに、また借り入れができないのに、たくさんの株式を買うことはできません。「ひとつの勝負にすべてを賭けるロマン」なども、この文脈では、ある種の制約かもしれません。

投資のポートフォリオは、またその金額は、どのように決めればよいのでしょうか。「投資は余裕資金で」などと言われることもありますが、なくなってもよいお金などありません。そんなとき、手持ちの100円で大勝負に出るべきなのでしょうか。リスクの分散効果は、組み合わせた投資先を「ポートフォリオ」と認識することによって生まれます。つまりポートフォリオとは、個々の投資成果よりも全体の投資成果に着目している状態です。複数のポートフォリオを組み合わせれば、それもまた、より大きなポートフォリオとなります。余裕資金の額を決めるステップと大勝負を決めるステップは、独立していては意味がありません。安全マージンとロマンを組み合わせれば、それもまた(リスクの大きさが調整された)ポートフォリオなのです。

個人の投資を考える際には、「自分全体」をひとつのポートフォリオとして認識することが大切です。買った債券ファンドが値下がりしても、買った株がさらに上がっていれば、よしとするのがポートフォリオの考え方です。金融機関に預けている残高合計は増えていたとしても、買って住んでいるマンションの価格は下がっているかもしれません。とはいえ債券が下がっているのなら、固定金利で借りた住宅ローンの評価額もおそらく下がっているでしょう。「自分全体」の範囲を考えるには、少なくとも貸借対照表の全体を構想する必要がありそうです。貸借対照表は、現在把握しているすべての資産とすべての負債、その差額としての純資産を表現します。

これらはすべて、時間とともに変化することを忘れてはいけません。例えば、あるとき「田舎暮らしをしたい」と思い立てば、その瞬間に将来の生活はがらりと変わり、収入や支出の未来像はそれまでと異なったものになるはずです。これに応じて当然のことながら、その現在価値としての資産や負債の姿も変化します。貸借対照表の全体が、時間とともに変化しながらも、将来に渡って望ましい姿であり続けることは、誰もが欲するはずです。

貸借対照表にはまだ載っていない、田舎暮らしを思い立った後に「買いたい」と思うようになるであろう古民家の価格もまた、自宅の価格と同様に時々刻々と変化していることに気をつけなければなりません。必ずしも顕在化していなくても、将来に発生する可能性のある「すべての」潜在的な支払いを割り引いたものを現在の負債の総額と考え、拡張された貸借対照表を構想することができるはずです。資産に関しても、必ずしもそれが確実でなくとも、将来に生み出されるであろう「すべての」潜在的な収入を割り引いたものを現在の総額と考えることによって、拡張された貸借対照表の資産側をイメージできるはずです。将来が可能性によって、いくつかに分岐している場合もあるかもしれません。自分の中では「五分五分」で、田舎暮らしと定年後起業を考えている場合には、それぞれの将来を半分に割って足し合わせることで、将来の可能性をも考慮した貸借対照表をつくることができそうです。

資産
潜在的な資産
負債
潜在的な負債
純資産'
資産負債
純資産


あらゆることは時間とともに移ろい、拡張された貸借対照表の全体すら刻一刻と変化を続けます。「自分全体」の「時間全体」を意識することによって、より合理的な投資マネジメントを構想できるはずです。現在の投資のポートフォリオは、そういった計画全体の一部として考えられるべきものです。仮にいま生活に余裕があったとしても、時間が経過するにつれ徐々に苦しくなっていく状況は、回避しなければなりません。他方で、一時的に「余裕資金」で大勝負に打って出たとしても、その後に収入のアテがあるのなら、全体としては大博打にはなりません。将来に住宅購入を視野に入れているなら、資産の一部を不動産へ投じておくことによって購買力を担保することができます。「老後の生活をオーストラリアで」と考えているのなら、資産の一部をオーストラリアへ投じておくことによって、リスクを減じることができるのです。

例題6-1) 「自分全体」のポートフォリオと「世界全体」のポートフォリオは、どのような関係にあるか

例題6-2) 「投資対象となるリスク資産全体」と「資金調達の全体」は、どのような関係にあるか

例題6-3) 「個々のリスクにかかるプレミアム」と「リスク資産全体のプレミアム」は、どのような関係にあるか
posted by equilibrium at 2001-06-01 | [草稿]本文
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