第七章 市場ポートフォリオ

すべての情報が瞬時に世界の隅々まで届くような、理想的な状況があったとします。そんなときには、誰もがあらゆるリスク資産に対して同じような見通しを持つはずです。誰もがあらゆるリスク資産に対して同じような見通しを持つのなら、誰もが同じようなポートフォリオを持つはずです。誰もが同じようなポートフォリオを持つのなら、その構成比率は世の中全体のそれであるはずです。

これが市場ポートフォリオの概念です。

例えばある企業のビジネスに関して、どんなに細かなことでも、知ろうと思えばすぐに情報が手に入り、また新たな情報は常に発信され続けているとします。他の企業のビジネスに関しても、同様に情報を入手することができるとすれば、組み合わせて投資することによって、どのようにリスクが分散されるかについても、知ることができるでしょう。そんなとき効率のよい投資をしようとすれば、結果的に、誰もが同じようなリスク資産の組み合わせへと辿り着きます。同じポートフォリオを皆が持つのなら、資金量やリスク回避性向によって大きさに違いこそあれ、その構成比率は世の中全体のそれと同じものであるはずです。つまりそのとき、すべてのポートフォリオは世の中のリスク資産全体のミニチュアであるはずです。

残念ながら現在のところ、情報が無限の速度で流通するような理想的な状況は、実現していません。ですから実際には、各リスク資産に対する皆の見通しは異なっています。それぞれの投資家は、自分自身の見通しに基づいて自分自身のポートフォリオを構成しており、その合計が世の中のリスク資産全体となっています。つまり現在の実際の市場ポートフォリオは、皆の「見通しの平均像」が表現されていることになります。見通しの平均像としての、実際の市場ポートフォリオに打ち勝つような投資の成績を挙げるのは、難しいということが経験的に知られています。ですので、例えばTOPIXやS&P500のような近似的な市場ポートフォリオに、そのまま投資するスタイルを支持する考え方があります。一方で、独自の視点で投資を行うスタイルも、根強く人気があります。とはいえもちろん、自分の見通しに自信がある者にとっても、見通しの平均像を知っておくことや、それを部分的に取り入れることは、有用に違いありません。

独自の見通しにとって、実際の市場ポートフォリオはどのくらい強敵なのでしょうか。その強さは、時とともに変化するのでしょうか。つまり実際の市場ポートフォリオは、どの程度効率的なのでしょうか。そして、その効率は今後どのように変化していくのでしょうか。情報は、日々その流通速度を増しています。「理想的な状況」と現状との隔たりは、非効率さそのものですが、時とともに社会の効率が高まるにつれ、実際の市場ポートフォリオは理想的なそれへと近づくに違いありません。

百万USドル/2008年12月末
Fixed IncomeEquity
AUSTRALIA
AUSTRIA
BELGIUM
CANADA
DENMARK
FINLAND
FRANCE
GERMANY
GREECE
HONG KONG
IRELAND
ITALY
JAPAN
NETHERLANDS
NEW ZEALAND
NORWAY
PORTUGAL
SINGAPORE
SPAIN
SWEDEN
SWITZERLAND
UNITED KINGDOM
USA


実際の市場ポートフォリオはどのように構成されているか、世界の債券市場や株式市場の大きさや構成比率は、調査会社の発表等によって、おおよそ知ることができます。もちろん各市場で、またその各構成銘柄で、経済やビジネスの動向は常に異なり価格は常に変動し、市場ポートフォリオは時々刻々と変化しています。各市場を構成する、個々の貸借対照表に期待される将来の利益や、他のビジネスとの関係、それにかかる様々なリスクやプレミアムの大きさの変化は、常に資金を流動させ経済の血流となります。

個々のリスク資産に目を向けてみましょう。市場で取引されているリスク資産には、投資される何らかの理由が必ずあるはずです。意味のない投資は誰もしません。市場ポートフォリオに占める比率が比較的大きいのなら、おそらくリスク・プレミアムが比較的大きいと考えられているはずです。または他のリスク資産と振る舞いが異なり、分散の役に立つと考えられているはずです。もしかすると、何らかの固有の事情があるのかもしれません。だとすれば、おそらくそれは「非効率性」と呼ぶにふさわしいものです。リスク資産の大きさ、市場の大きさは、投資を考える際に注目すべき情報のひとつです。

大きさを測定することが難しいリスク資産や市場に、未公開株式や不動産、商品などがあります。これらの中には、取引や情報が少ないため、現実的な評価が難しいものなども含まれます。また公開されている株式であっても、例えば「持ち合い」などによって実際には取引されず、見通しの平均像に数え入れることが適切でないものもあります。これらの意味で、取引や情報の流動性は、極めて重要な概念です。取引できないリスク資産や情報のないリスク資産は、市場ポートフォリオの観点からは、存在していないのと同じことです。ポートフォリオを上手に取り扱おうとすれば、各資産や市場の大きさを考える際には、こういった流動性を割り引く必要があります。

市場ポートフォリオは、投資の出発点として、あるいは中立的な参照点として、重要な役割を果たします。投資することによって世界全体は自分の内部へと取り込まれ、自分は世界の構成者であると同時に、その保有者でもあることになります。

例題7-1) 「市場」の範囲はどこまでか

例題7-2) 通貨が市場ポートフォリオに果たす役割は何か

例題7-3) 市場ポートフォリオのリスク・プレミアムは、何を意味するか
posted by equilibrium at 2001-07-01 | [草稿]本文
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