第八章 投資と選別

最も「普通の」ポートフォリオは市場ポートフォリオですが、多くのひとは普通では満足しません。よりよい運用成績を目指して個性を発揮し、自分なりの投資を試みようとします。そのような投資には、多くの場合、投資そのもの、つまり資金を供給しリスクを負担する意味合いと、投資タイミングや供給先を選別する意味合いが、同居しています。

選別しようという意志の中で、「安いときに買い、高いときに売る」ことを目指す考え方をタイミング、「安いものを買い、高いものを売る」ことを目指す考え方をクロスセクションといいます。前者は異なる時点間での同じ投資対象に対する比較、後者は同じ時点での異なる投資対象間に対する比較です。買い時を選ぶことや、「順張り」「逆張り」などと呼ばれる手法はタイミング的、投資先の乗り換えや、買いと売りの組み合わせはクロスセクション的ということができます。

タイミング的であれ、クロスセクション的であれ、取引されている債券や株式の価格を「安い」と感じることがあったり、あるいは「上昇を続ける」と感じることがあるかもしれません。リスク資産の価格とその変化は、市場参加者による評価の総意と考えることができますが、しかしそれぞれの評価が立脚している根拠は、揺るぎやすいものにならざるを得ません。

債券の価格 = Σ{将来の返済/(1+割引率)}
株式の価格 = 現在の純資産 + Σ{将来の利益/(1+割引率)}

例えば債券では、将来の返済の可能性に対する見方も、これを割り引く考え方も、投資家によって異なり、それらはまた時間とともに刻一刻と変化します。株式では、将来の利益に対する予想も、これを割り引く考え方も、現在の純資産に対する見方さえもが、投資家によって異なり、それらはまた時間とともに刻一刻と変化します。多くの市場参加者が、将来の返済や利益に関する評価を変化させれば、リスク資産の価格は大きく変動します。またそれを見て、追随的に将来に関する評価を変化させる投資家も現れます。価格の変化をどのように捉えようとするのか。なぜ安いと感じられるのか、なぜ上昇を続けると感じられるのか。選別に際しては、その「テーマ」についてよく考える必要があります。

代表的な選別のテーマとして、価格を構成する各アイテムの水準を考察することによって、割安なリスク資産を探す手法や、価格を構成する各アイテムの変化を考察することによって、成長するリスク資産を探す手法などがよく用いられます。もちろん選別のテーマの可能性は、他にも数多くあります。単に投資パフォーマンスを期待するだけでなく、例えば地球環境への優しさ、または社会的責任や意義をテーマにする場合もあります。単に「好き」をテーマとするなら、それは投資家の数だけ存在するともいえるでしょう。

割高に見えれば売られ、リスク資産の価格は下落します。成長するように見えれば買われ、リスク資産の価格は上昇します。地球環境に優しければ、それも売買の材料となります。多くの投資家が情報を収集し、それぞれのテーマに沿って分析し、選別を行うとき、リスク資産の価格には多くの評価が反映されています。資金を調達する側から見れば、投資家の欲する情報を速やかに提供すること、また事業を内容毎に分離し、選別を効率的に行えるようにすることで、投資家の評価をより高めることができます。このとき社会全体の効率は高まっており、リスク資産の全体としての市場ポートフォリオは、より効率的で理想的なそれへと近づいています。

投資そのものは、市場を通じて資金を調達し生産をはじめようとする者に、そのための資金を供給することにあたります。このことは経済成長を後押しし、投資家は金利とリスク・プレミアムを享受します。一方で選別は、生産者に、事業の内容や時期について熟慮することを促します。投資が社会を成長させ、選別が方向を与えるのです。

例題8-1) 選別に際して価格のトレンドを追いかける投資家が増えることによって、何が起きるか

例題8-2) 選別が効率的に行われるための構造とは、どのようなものか

例題8-3) 投資のリスク・プレミアムと選別のリスク・プレミアムは、どのような関係にあるか
posted by equilibrium at 2001-08-01 | [草稿]本文
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