第九章 ヘッジファンド

ヘッジファンドは、さまざまな選別を行います。多様な対象を多様な手法で取引し、利益を追求しますが、選別のための基本的な考え方は、通常の投資と何ら変わりません。

リスク資産の短期的な取引は、それが債券であれ株式であれ、為替であれ商品であれ、それらのデリバティブズであれ、タイミング的です。タイミング的な選別の中には、規制や税制等によってリスク資産の将来の需給関係があらかじめ予測されているとき、その反対側の立場で取引するイベント的なものも含まれます。例えば、将来のある時点で、何らかの理由で「売りたい」投資家が殺到することが予想されるときに、流動性を供給する(買う)ことで、その見返りとしての利益(価格の上昇)を期待するものです。

トヨタ自動車を買って日産自動車を売ること、金を買って銀を売ること、現物を買って先物を売ること、これらはすべてクロスセクション的です。クロスセクション的な選別の中で、買うものと売るものが似ているとき、これを裁定取引といいます。比較する両者が似ているほど、非合理的な相対価格から期待される収益の確実性は高まります。しかしながら、皆が同様の取引を行うことで裁定機会は消滅しやすく、価格は均衡へと向かわざるを得ません。

複数のリスク資産を組み合わせたときと同じように、複数の選別を組み合わせることによって、リスクは低減され、ポートフォリオの効率は上がります。ヘッジファンドでは、様々な階層でタイミングとクロスセクションを組み合わせ、より複雑な取引を行うこともあります。

ヘッジファンドの行うそれぞれの選別について、そのテーマを事前に確認しておくことは重要です。例えば、『トヨタを買ってルノーを売る』という選別の成果は、一般に世界の株式市場や通貨の動向に左右されますが、「自動車製造業を相対比較する」ことがテーマであるとき、世界の株式市場や通貨の動向による影響は邪魔なノイズです。事前に排除するか、その影響の度合いについて明確にされていることが、投資家にとっての利便性を高めます。『日本を買ってフランスを売る』株式市場の相対比較や、『円を買ってユーロを売る』通貨の相対比較を、それぞれに独立したテーマとして取り扱うことが可能となるからです。現在は、取引手段とリスク管理の発展によって、株式市場や通貨の動向による影響を選別の中から排除すること、また意図的につくり出すことは、低コストかつ容易になっています。テーマを個別に評価し、選別を「選別」する利便性を高めることによって、さらなる市場の効率化に寄与することになります。

選別のテーマが事前に明確にされていることは、同時に、運用成績を比較すべき指標が明らかになっていることでもあります。株式市場や通貨の動向が排除されているのなら、リスクの度合いにかかわらず、比較の対象としては無リスク金利が適当でしょうし、株式市場や通貨の影響を排除しないのなら、比較の対象には、無リスク金利に加えて市場ポートフォリオ(またはその一部)が実現するリスク・プレミアム、つまり株式市場や通貨の動向が含まれるでしょう。

ヘッジファンドの行う選別にとって、流動性は常に重要なポイントとなります。自分自身の取引量が大きすぎれば、価格を動かしてしまい、何のタイミングを計っているのかわからなくなりますし、裁定取引では機会のすべてを消費してしまいます。選別による収益の大きさは、タイミング的であれ、クロスセクション的であれ、「価格の適正化」以上の容量を持ち得ません。投資から選別へ、より細かな選別へ、そのテーマが詳細で具体的になるほど、収益の確実性は高まる一方で、その容量は小さくならざるを得ません。言い換えれば、より市場が大きく継続的であるのは、細かな選別よりも大きな選別、さらに市場リスクのプレミアムを享受しようとする「投資そのもの」です。

ヘッジファンドへ資金が流入することは、選別にかかるリスクを投資家が許容し、そのプレミアムが低下することを意味します。さまざまな選別のテーマがリスク資産の価格に織り込まれる過程で、ヘッジファンドは利益を生み出しますが、その結果として実際の市場ポートフォリオの効率を高めます。舵取りは前進のための自信となり、航海を先へと進める力になります。

例題9-1) ヘッジファンドが持つべき投資家にとって利便性の高い性質は何か

例題9-2) ヘッジファンドの隆盛または急速な縮小によってもたらされるものは何か

例題9-3) 選別の「市場ポートフォリオ」を想起してみよ
posted by equilibrium at 2001-09-01 | [草稿]本文
×

この広告は1年以上新しい記事の投稿がないブログに表示されております。