例題5-1) プレミアムの存在しないリスクとは、どのようなものか

リスク・プレミアムの実現プロセスについて、具体的に考えてみます。例えばシンプルな「明日100円もらえる」という権利は、おそらく今日100円未満で取引されます。明日100円払う側の立場で考えてみれば、今日100円を受け取って明日100円を払えばよいのなら、一日分の利息は丸儲けですが、そんなにうまい話はありません。「私なら、今日受け取るのは95円でもいいですよ」と誰かが言い出すでしょう。少なくとも時間の価格は、つまり無リスク金利分は、権利の価格に反映され、割り引かなければならなくなります。

おそらくは、さらに割り引く必要が出てくるでしょう。明日100円受け取る側の立場で考えてみれば、今日95円を払って、一日分の利息5円を足してちょうど100円を受け取るのでは面白くありません。安心して預けられる近所の銀行に任せておけば、同じことだからです。未来のことは不確実なのですから、事故の可能性は否定できないのですから、権利の値段は、もうすこし安くなければ割に合いません。

明日100円もらえる権利を今日90円で買って、無事に一日が過ぎて、明日になって100円を受け取ることができたとき、無リスクの金利と、さらに上乗せされたリスク・プレミアムを享受することができています。このとき、一日経って100円を払った連中は一体何を考えていたのでしょうか。先に受け取った90円で、リスクをとって商売をしていたに違いありません。皆が欲しがる物やサービスをつくり出すことで、元手は200円にも300円にもすることができる、そう信じて努力していたに違いありません。だからこそ、リスク・プレミアムを払ってでも、90円を調達したのです。

リスク・プレミアムは、何もないところから、突然生まれてはきません。リスク・プレミアムを受け取るひとがいるとき、反対側にはリスク・プレミアムを払うひとがいます。

リスク・プレミアムを払うひとがいないリスクには、例えば博打があります。そもそも博打は不確実性を楽しむものです。丁半博打で、丁が出たら100円もらえる権利の値段は50円で、それ以下にはなりません。リスク・プレミアムを支払ってでも、45円で権利を売って資金を調達しようというひとは、そこにはいません。似たような内容なら、隣で売っている、半が出たら100円もらえる権利を、50円で買う方がよいからです。

エネルギーや農産物、貴金属といった商品には、リスク・プレミアムが存在するとは考えにくいでしょう。原油の価格は需給によって変動しますから、保有しておくことにはリスクがありますが、だからといって見返りを期待する理由はなさそうです。リスク・プレミアムを払ってでも原油を売りたいというひとは、いないからです。

不動産の場合には、やや趣が異なる側面もあるかもしれません。不動産は、生活のための場所であり、また生産のための場所でもあります。保有することにはリスクがありますから、見返りを払ってでも、保有せずに場所を借りて生産したいというひとはいるでしょう。他方で、生活のための場所を確保する安心のために、積極的に保有したいひともいます。ほとんどすべてのことに場所が必要であり、保有することのリスクはひとによって評価が異なりますから、互いにリスクを交換できる場合も多そうです。

通貨の交換レートにも、やや趣が異なる側面もあるかもしれません。ドルを買って円を売りたい側にも、ドルを売って円を買いたい側にも、通貨の交換には一般に、それぞれに目的が存在します。リスク・プレミアムを支払ってでも、ある通貨を売りたいという取引は存在するかもしれません。しかしながら同時に、リスク・プレミアムを支払ってでも、その通貨を買いたいという取引も存在するでしょう。なぜなら、他国通貨を買って自国通貨を売ることは、他国の相手からみれば、やはり他国通貨を買って自国通貨を売ることだからです。とはいえ、交換によって都合よく打ち消すことのできないリスクも、全体としていくらかは残るでしょう。

投資家にとっては、リスクは単体で捉えるものでなく、保有する複数のリスクを合わせて、全体として考えられるべきものです。だとすれば、他の多くのリスクを打ち消すような補完的なリスクは、受け取るプレミアムは小さくても、負担してよいと思えるはずです。他の多くのリスクと似たようなリスクは、相応のプレミアムを受け取れなければ、あまり負担したいとは思えないでしょう。誰が、なぜ、リスク・プレミアムを払う構造になっているのか。ものをつくる活動に必然的についてまわるリスクを、債券や株式のような形で切り離すこと、そのリスクを皆で広く負担し、その対価としてプレミアムを期待すること、これらは広義の分業とも考えられます。
posted by equilibrium at 2002-05-01 | [草稿]例題
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